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お金が逃げ始めている
新型コロナウイルスショックで金融市場も荒れている。
10年ごとに発生する世界的な大経済危機では、新興国では資金が流出し通貨が下落することになる。そして、投資家は基軸通貨で世界的に信認があるドルに資金を集め、危機に備える行動をする。
今まさにその現象が起きているのだが、少し様子がおかしい。新興国から資金が逃げてはいるが、逃げ込むはずの米国債が下落している(つまり米国の長期金利が上昇している)のである。
最近でも、麻生財務大臣が韓国側からの通貨スワップ協定(資金供与)の依頼を断ったことがニュースになっている。メディアの取り上げ方は、日韓問題の視点中心だが、通貨の信認が低い国で、起きるべき事が迫っているとみるべきだろう。
そもそも韓国は、1997年のアジア通貨危機の時に、ほかのアジア諸国と同様に通貨が売られ、外貨準備が尽き破綻の可能性が高まりIMFに援助を要請した経験がある、いわば要注意国である。最近でも韓国で、当時を描いた、まさに『国家が破産する日』という映画が製作され、日本でも公開された。
その後、2000年に、ASEAN+日中韓が2国間通貨スワップ協定のネットワーク化を取り決めた「チェンマイ・イニシアティブ」を締結した。だが、その一部であった日韓の通貨スワップ協定も2015年に途切れた。そのような状況下、コロナショックで、韓国が影響を受け、再度、日本に依頼があったが、政治的関係が悪化しており、断ることになった。
一見混乱を抑え込んだように見えるが
現在では、武漢の都市封鎖も解除されピークアウトしつつあるが、今回、中国は世界で最初に国内の武漢から新型コロナウイルスの感染爆発が起き、全土に広がった。
当然、中国関係の金融市場も影響を受けることになる。
景気の指標となると誰もが見ているのが株価である。中国経済の指標となる「上海総合指数」の動向は、様々な株価維持策が採用されたこともあり、年末比べ3月末まで1割弱の下落率と、日本や米国などの2割超の下落率と比べると低くなっている。
また、人民元についていえば、当局によってコントロールされている政治的な通貨である。人民元の為替レートもトランプの就任時に配慮して、対ドルで6.2元強程度まで人民元高に誘導していたものの、その最近は7.0元前後と人民元安傾向に移行していた。この人民元安は中国の輸出に対してプラス働くことになる。そして、この1ヵ月はさほど大きい動きはなかった。
やはり中国から資金流出
しかし、これら表面的な各種指標の動きの裏で、実際には、中国から大量の資金の流出が続いていたのである。
それは外貨準備を見れば分かる。この3月だけで460億ドル(約5兆円)も減少しているのである。
中国人民銀行は、「米ドルの評価が下がったので」と説明しているが、実際には今回のコロナショックの中で総合的に見れば米ドルの評価は上がっている。
人民元の場合は当局の介入によってあるレンジに固定する、実質的な固定相場制なので、中国からの資金流出、すなわち人民元売りから米ドル買いの動きは為替レートの変動で調整されず、人民元安圧力が続くことになる。
通貨危機を避け、この動きを止めるために、同額のドル売りを通貨当局である中国人民銀行が行い、プライス・マイナス・ゼロで動きを止め固定的に為替レートを維持する介入をする必要がある。
そこで平常時の中国の外貨準備の増加額を分析してみた。中国では基本的に資本移動が規制されているため、1年間の経常黒字の金額を介入していると考えられる。
すなわち、外貨準備の増加額というのは中国では経常黒字の金額となると検証できる。あたりまえだが、毎月の増加額はその12分の1ということになる。
しかし、今回のコロナウイルスショックでは、資本が大きく流出し、それに対して大きく介入して、もともと4兆ドルあった中国の外貨準備の8分の1も使用したというわけである。日本の現在の外貨準備は1.4兆ドル弱であるから、日本だったら4割弱も使用していることになる。大きく中国人民元の為替レートが動いていないので、言い換えれば、この460億ドル(5兆円)が、ほぼ中国から流出した金額ということになる。
米国債下落の真相
経済危機の時などに為替レートが大きく下がると、その国の資産の評価額が下がるために、さらに相乗的に流出を煽るという現象が起こる。そのため、中国人民銀行は為替レートをどこまでも維持しようとする。
上海総合指数の下落率が、日本や米国よりも小さくすんでいるのは、もちろん買い支えや窓口規制を行ったこともあるが、それ以上に為替レートが安定していることが大きな理由だったのである。
もっというと、外貨準備というものは、「海外中銀預り金」という科目で、それぞれの中央銀行に保管されている。実際に当座預金のような流動性で保有するのではなく、通常時は9割以上、当該国の国債で保有する。つまりドルであればFRBの口座に中国政府名義の米国債というかたちで存在している。
このため、中国人民銀行がドル売り為替介入するということは、ドルの外貨準備が減少することを意味し、その裏側で外貨準備として保有している米国債を売却することを意味する。米国にとって目の前で自国国債が投げ売られるのである。
その時は長期金利の指標である10年物国債でいうと0.6%から1.2%まで上昇した。現在、米国債の入札(新規発行額)は年間1兆ドルであるが、その5%にあたる規模の売却を行ったわけで、影響は大きい。
今回は10年に1回という通常ではない経済危機なので、投資家は債券よりも現金を求めてもいたことはたしかだ。それにしても、通常の経済危機の時には「米国債」は買われるはずである、という予想を覆したのは、それを上回る中国人民銀行の動きがあったとみている。それほど中国にとって重要な事態に直面していると考えて良さそうだ。
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